1)皮膜の硬さ
硬質皮膜の用途上最も重要な性能は耐摩耗性で、その代用特性として硬さが使われる傾向にある。酸化皮膜は、素材が酸化物として皮膜を作るため素地材質成分とその含有量により強く影響を受け、皮膜硬さは素地材質によってある程度決まってしまうが、それを電解液や電解条件など電解方法を改良して向上を図っている。電解中には溶解する合金成分を多く含有する合金の皮膜硬さは低い値となる。
皮膜硬さは断面の測定をJISは指定している。断面硬さは素地側が高く、表面側は低くなるので、皮膜断面の中央で測定する。
2)皮膜の耐摩耗性
従来、平板回転摩耗試験(デーバ摩耗試験)が多く使われていたが、往復運動平面摩耗試験と噴射摩耗試験が新しく採用され、この中から用途に合った試験方法を使えばよいことになった。封孔処理によって耐摩耗性が低下する為ため、硬質皮膜は、通常耐食性を必要とする場合を除いて封孔処理は行なわない。封孔処理による平板回転摩耗試験の影響を表8に示し、耐摩耗試験の比較試験例を表9に示す。
表8 皮膜硬さと平板回転摩耗
材料
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皮膜厚
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25μm
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50μm
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80μm
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皮膜硬さ
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平板摩耗
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皮膜硬さ
|
平板摩耗
|
皮膜硬さ
|
平板摩耗
|
A5052
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未封孔
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422HV
|
10.2mg
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409HV
|
11.0mg
|
416HV
|
18.6mg
|
封 孔
|
427
|
27.1
|
418
|
22.5
|
425
|
38.4
|
A1050
|
未封孔
|
418
|
11.2
|
425
|
10.5
|
411
|
11.1
|
封 孔
|
433
|
16.2
|
436
|
17.4
|
427
|
19.2
|
表9 JIS
H 8603 硬質陽極酸化皮膜の耐摩耗性試験
材料
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往復運動平面摩耗
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噴射摩耗
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平板回転摩耗
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ds
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減摩量μm
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ds/μm
|
比率
|
μm
|
秒
|
s/μm
|
比率
|
CS-17mg
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A1050
|
700
|
16.2
|
43.21
|
100
|
51.5
|
285
|
5.5
|
100
|
8.1
|
8.9
|
9.3
|
A2014
|
300
|
24.2
|
12.40
|
28.7
|
49.2
|
130
|
2.6
|
45.6
|
22.8
|
−
|
−
|
300
|
24.1
|
12.44
|
28.8
|
52.1
|
120
|
2.3
|
40.3
|
22.3
|
−
|
−
|
A2024
|
300
|
25.3
|
11.86
|
27.4
|
52.4
|
130
|
2.5
|
43.9
|
−
|
24.8
|
−
|
300
|
21.3
|
14.08
|
32.6
|
48.6
|
130
|
2.7
|
47.4
|
−
|
23.6
|
−
|
A7075
|
700
|
28.2
|
24.82
|
57.4
|
49.1
|
150
|
3.1
|
54.4
|
−
|
−
|
13.2
|
700
|
25.8
|
27.13
|
62.8
|
53.1
|
180
|
3.4
|
59.6
|
−
|
−
|
16.5
|
硬質皮膜の耐摩耗性は表面側が低く、素地側はやや高い値となる。このため平板回転摩耗試験では1000回転の予備摩耗を指定している。
3)硬質皮膜の色彩変化
表10 硬質皮膜の色彩変化
材 料
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色 彩 変 化
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A1050
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素地色 → 薄灰褐色 → 灰褐色 → 濃灰褐色 |
A1100
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素地色 → 薄灰褐色 → 灰褐色 → 黒灰褐色 |
A2017
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素地色 → 薄灰色 → 灰色 → 濃灰色 |
A3003
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素地色 → 薄灰褐色 → 濃灰褐色 → 暗灰褐色 |
A4043
|
素地色 → 薄灰青色 → 灰青色 → 暗灰青色 |
A5052
|
素地色 → 薄褐色 → 濃灰褐色 → 暗灰褐色 → 黒褐色 |
A5056
|
素地色 → 薄茶褐色 → 茶褐色 → 暗灰褐色 → 黒褐色 |
A6061
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素地色 → 薄灰褐色 → 灰褐色 → 暗灰色 → 黒灰色 |
A7075
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素地色 → 薄茶褐色 → 濃灰褐色 → 青灰色 → 青白灰色 |
AC2A
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素地色 → 薄灰褐色 → 灰色 → 暗灰色 |
AC4A、4C
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素地色 → 薄灰色 → 灰色 → 暗灰色 → 黒灰色 |
AC7A、7B
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素地色 → 薄灰褐色 → 灰褐色 → 暗灰褐色 → 薄灰褐色 |
4)角部における皮膜の形成と望ましい形状
製品形状に鋭角部があると、図14-1(皮膜形成)に示すように皮膜は均一に形成されない。角部の望ましい形状は、図14-2に示すとおり。角部の曲率半径を表11に示す。
図14-1 角部における皮膜形成
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(凹部における硬質皮膜) |
(凸部における硬質皮膜)
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図14-2 角部の望ましい形状
表11 皮膜厚さと角部の望ましい曲率半径
公称皮膜厚さ(μm)
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MIL指定曲率半径(mm)
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望ましい曲率半径(mm)
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25
|
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1.0以上
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50
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1.6
|
2.0以上
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75
|
2.4
|
3.0以上
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100
|
3.2
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4.2以上
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MIL A8625
5)皮膜厚さと寸法増加
皮膜厚さは平均値を使用する。鋳造材のように皮膜厚さの不均一が避けられない合金材も取扱う為である。硬質皮膜の皮膜厚さに指定がない場合、海外規格では50μmを標準としている。酸化皮膜は合金種によって多少割合が変化するが、素材の内側に約1/2、外側に約1/2成長するので、製品の完成寸法に注意が必要である。
図4 皮膜形成と増加厚さ
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